春の始まり…………。
昼の太陽がだんだん高くなると、真っ白な綿飴みたいな雲がポカーンと浮かんで、海のほうから温かい風がふいてきた。お屋敷の庭にはアメリカたんぽぽがいっぱい咲いて、蜜蜂やモンシロ蝶が飛んで来ると、身も心も何だか浮き浮きしてしまう。
這い出してきたヒキガエルを見付けたら、軽く頭を叩いて挨拶するのが春の始まりだ。
通りから健太とタカ坊、それにミキちゃんの声が聞こえる。三人ともYOKOHAMAインターナショナルスクールに通っている小学年だ。
「オーケラ、オケラ、おまえのチンチンどーのくらい」石垣の透き間に巣を作ってたケラ虫が、悪ガキに無理やり引き出されて、両手をスリスリ合わせて開いては止める。
「あははっ、こいつのこんなにちっちゃいぞ」
ガキ大将の健太からケラ虫を手渡されたタカ坊は、恥ずかしそうに真似をする。
「健太君もタカ坊ちゃんも、エッチなこと言ったらいけないのよ」 ミキちゃんは口とは反対に覗き込む。
「次はミキちゃんの番だ」
あわてて逃げ出したミキちゃんを追いかけて、みんな走って行った。
ぼくは悪ガキらに見付かると、いつも猫釣り遊びでからかわれるから、石垣の上に隠れてじいっと様子を見ていた。
猫釣り遊びは、釣りざおの糸先に赤い布切れを巻いて、それをピョコピョコさせるから、つい、夢中にさせられてしまう。
それは良いけれど、その後でアハハとバカにしたように笑われるので、ぼくの自尊心が傷つくのだ。