花子さんとモズ

暖冬異変とかで過ごし易い日が続くのに、庭の風情だけは季節を写して、ぶなの木は葉が落ちて丸裸、地面の草も大方は茶色く萎びている・・・、

  冬の始まりを告げる、山茶花の白い花はもう咲き終ろうとして、蕾だった寒椿も上の方から花開いている。

 テラスの周囲と床には雨風よけに厚めの透明ビニールが張られて、見る物がぼやけたり歪んだりするけど、暖かさは抜群だ。冬場のミニキャンプのようで、猫アドベンチャーの俺は満足している。

 それでも寒くなって冷たい海風が吹き付けるようになると、部屋にいることが多くなる。お嬢さんは自分が退屈していると俺にお説教じみた話を聞かせる。

  ずうっと以前、天気予報を気にしていたお嬢さんは、冬休みを利用して、長野の山に日本猿のモズを訪ねて出掛けた。              

 モズは生れたときから両足の下肢が無いのに、野生の群れで行動しながら、何匹も赤ちゃんを生んで育てている。テレビ番組で紹介されてから、毎年温泉場に通っているけれど、冬場はそれが何日かかるか分からない。

  モズに赤ちゃんが生まれて立派に育ったけれど、あまり姿を見せなくなったようだ。  
    
 ついでに教えると、日本猿については、九州大分の高崎山にも旅することがある。高崎山にはマイケル君が居て、列車に弾かれて右前腕を無くした、奇跡的に生き残ってB群のボスにまで成った。

  悪いことに、その下の水族館には、「ウーパールーパ」なんて名前でテレビコマーシャルやデパートのもよう催事で人気だったアホロートルって名の魚がうじゃうじゃいたものだから、サルの話に退屈すると、「確か、ツートンみたいな色の、アホロートルもいた」とアホにアクセントを入れて付け足す。      

 それに、猿のほかにも井の頭動物園のインド像の花子さんが好きなんだ。    もう五十才を越えているだろうに、頭から鼻が白く禿げて、何だかシワシワに見えるけど、戦後、インドから来た平和のシンボルとして「上野の花子さん。」と呼ばれて広く知られていた。

 一人ポッチの花子さんは、外の運動場に出されると、見物客にはそっぽを向いて、ブウラリブウラリ大きな体を揺すっている。

  小さな子供達が感性を上げても知らん顔しているけれど、「花子さん、花子さん、こちらを向いて花子さん。」て、優しく声掛けると、ノッソノッソとすぐ近くまで来て、長い鼻を持ち上げてポーズを取ったり、挨拶したりしてくれるんだ。

 お嬢さんはヒューマニズムドキュメントに感激して、帰ってくると必ず話しを聞かすから、すっかり覚えてしまった。

  涙ぐんだりしながら話しているときに、俺が居眠りでもしようものなら、「狸寝入りなんかして、ツートンは憎ったらしいだけね、モズの爪の垢でも飲めばいいのよ。」 なんて、とんでも無いとばっちりを受けてしまう。猫と猿、猫と像なんて比べるほうが無理ってもんだ。   
          
 それに、お嬢さんが旅行をするときは、甘ったれのアルは車に乗せられて付いて行ったから良いけど、留守番の俺と茶虎バッパは、自動給餌器のドライフードと水だけで過ごしたのだから、もう少し労ってもらいたい。

こんな時に猫は愛情と旨い物を求めてノラになるんだ。   
猫にはデリカシーが大切だ。 

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