本館の庭に回ると、おすましやのチンチラのチンが出窓に座って外を見ていた。チンは自分がこの家に来たのは、自分の器量がよほど良いから選ばれたと信じ込んでいる。

  チンは生れて六か月のときにキャットショーに出たらしい。四人の審査員のうち二人から入賞のロゼットを貰って、それが縁でこの家に来たんだと自慢するのを何回も聞かされた。

 それにチンにはフィアンセがいる。時々、大きな白い外車に乗せられて顔見世にやって来るのだが、猫のくせに、わざとらしい流し目が得意の近付きにくいキザなオス猫だ。              

 エメラルド色の大きい目と、やや陰のあるシェーデットという毛色で、見るからにゴージャスな毛並だが、バリカンでも掛けちまえばやせっぽっちなのが一目で分かる。      

 チンは話の内容で呼び方も変える。
 「マクシミリアン様、マッ君・・・」 マッ君なら我慢も出来るが、自慢話のときは、きまってマクシミリアン様と言う………、

  「マクシミリアン様は私のお母さんとは腹違いの弟で、私のおじさんだけれど、私が生れた時からフィアンセに決まっていたのよ」なんてデレッとして話すんだ。フザケルナ。

 いくら血統付きだと威張っても、いくら目玉が大きいと鼻を高くしても、しょせん猫は猫なんだから体だけは丈夫でなくちゃ、俺たち猫の世界じゃ何よりも男っ気が大切なのさ。

  もちろん、チンにはこんな理屈も分からないから、やっぱり話の終わりには喧嘩になってしまった。

 年増の猫はしつこい。
 「マクシミリアン様はキャットショーの常連だったの。いつも一番大きくて立派なロゼットを何回も貰って、グランドチャンピオンになったの・・・」などと鼻を膨らませてエスカレートするばかりだ。

 でも、この時はキャットショーなんて俺には無縁なものだと聞き流せたが、まさか、この俺がそのキャットショーとやらに引っ張り出されるとは夢にも思ってもいなかった。          

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