俺は今日一日で四人の審査を受けて、全部のリングで最終戦に勝ち残った。もっとも、10位までの入賞で8匹しかいないのだから当たり前のことだが、1つでも順位が上がると、お嬢さんはうれしそうに「がんばった、頑張った」と言って俺の頭を撫でてくれる。

  「すごいのね。立派な猫ばかり」とお嬢さんがお友達に話し掛けているが、俺の頑張りを忘れている。  

  「貴女のツートン君だって立派よ」と、それが慰めであっても俺のプライドはすぐ反応して満足する。お嬢さんのお友達はブリーダーと言って、キャットショーの常連さんらしく、白毛にクルクル渦巻き模様が黒い銀色の猫、アメリカンショートヘアーなんてのを出陳している。

  以前にチンからキャットショーのことを自慢げに聞いたことがあるが、俺には全く関係の無い別世界のお話だと思っていたのに、「ツートン、負けてもいいのよ、お付き合いだから我慢してね。帰ったらフライドチキン……、」

  その一言に誘われたのだが、結構お嬢さんの方が興奮して、「今度こそ一番になってね」と言いながら、俺の体を磨くのにだんだん力が入ってきた。黒毛の部分がピカピカになって、俺は三回目の審査で顔中髭だらけの、ちょぴりだけ頭が薄い審査員から、ついに一番を貰った。「ベストキャット」って言うんだ。      

 「オーナーの方どうぞ」と促されて、お嬢さんは上気した顔付きを押し隠すように、審査台の前で、ちょっと気取って俺を抱いて、記念写真をした。小刻みに体の震えが伝わってきた。  

  「やった、やった、ツートン君はきっとベストになると思っていたわ」お友達は歓声を上げて喜んでるが、まあ、猫好きは単細胞だ。

  「あの審査員は見る目があるのよ」と、クスリと笑いながら二人で納得している。

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