俺は感じているのだが、キャットショーの会場には生温かい空気が流れている。

 何だか社会常識からはかけ離れて、素直に喜んだり笑ったりできないような、その反対にバカ笑いしたり大声で話していたり、新しい人だとチラリと様子を探るような、ギスギスした嫌なムードだ。

 勝っても負けても、猫が変わるわけじゃないのに、飼い主の目が血走っているよ。・・・まあ、目立っているのは一部の人だけどね。

  それでも、キャットショーは猫のオリンピックだなんて思っていたが、競争するだけでもない。スタンダードと云う、猫品種の評価基準の説明や、手入れについて、それに、捨て猫防止の問題まで、いろいろな話をしながら審査する。

  この日一日、夕方の五時頃までショーは続いた。眠たくなると、また、呼び出されて、腹は減るし、ちょっとへばり気味だったが、家に帰ってチンの顔見るのが楽しみだった。

  カラフルな飾の付いた大きなリボン、ロゼットと云うらしいが、こいつを四つ首から掛けて、「パトリシアちゃん、一つお裾分けしましょうか、重たくて、重たくて………、」いやいや、嫌味たらしいのは男が廃るから、知らん顔して窓の外を行ったり来たりしてやろう。・・・こいつも嫌味かも知れないが、苦労して獲得した一番の名誉を、・・・黙っているのも難しい。

  お嬢さんはうれしそうに声を弾ませて「ツートン偉かったわね」と、あれこれ話し掛けてくるけれど、俺は車の助手席で寝そべって、早く帰って飯食いたいとひたすら考えていた。オシッコの我慢だって限界に近いのだ。
  でも、お嬢さんはいつもよりおしゃべりで「お髭の審査員、ちょつと見だけど、男っぽかったわね」と、オベンチャラまで言う。

  「なんのなんの、薄ら頭・・・」 と、俺はウニャと答えるが、一番になったことを誉められたので、ついその気になってゴロゴロ言ったら「また出ようか、ツートンだっていつもきれいにしていられるし」・・・あれっ、それは無いだろう。これっきりって約束だったのに・・・俺にはキャットショーなんて、ちっとも面白くないよ。

 「それに、あの審査員、ベストを選ぶときに私のことを見てたわ。ねっねっ・・・」ふん、舞い上がってるときは何を言っても無駄だ。フライドチキン忘れるな。

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