猫の井戸端会議………

   このような猫の井戸端会議がいつから始まったかは定かではないが、満月から3日が過ぎた日曜日の夕方、三々五々、外人墓地にある小屋の裏手に、近所の野良猫の代表が集まってきた。

  みんなで茶虎バッパが食べ残してあったドライフードに舌鼓を打った後、少しまどろんで、深夜になって会議が始まった。


 出席猫の点呼。
 議長・茶虎猫のバッパ、書記役・白黒のツートン、近在の代表猫は、若後家の三毛、汚れ白猫の世太郎、飛び白茶斑の不良猫、赤黒斑の柳腰猫、真っ黒の元ボス猫、順不同。

 この集まりはニャンじゃろう・・と理屈屋の偏差値猫がちらりと顔を見せて「猫だからって、少しは論理的なお話になると良いのにねぇ・・」などと毒づいて立ち去った。


 「弱輩のボクが書記を勤めますが、記録は猫言葉で、それとも人間言葉が………、」と口を切ったが、書記役は大役なので、さすがの俺も緊張して声がかすれる。「ホホホッ、ツートンさんは相も変わらず律儀だね」と、若後家の三毛猫が妙にしなをつくる。

 「そんなに堅苦しく考えることは無いよ。ニャニャニャンと書いて不自由する半可通もいないけど、人間様に分かり易いように人間言葉で書くが良いよ」と飛び白茶斑の不良猫がドラ声で言い、みんなうなずき、ゴロニャン、ゴロニャン、ゴロニャンニャン、と三三七拍子で猫会議が始まった。





まずは最初に議長のバッパが、「今日集まってもらったのは、最近、ノラ猫問題が人間社会であれこれ言われているけれど、猫のことは人任せにもできないから、みんなの意見を聞かせておくれよ・・・」と、物静かに話しだす。

「あたしゃ、ここに来るのが待ち遠しいのさ、近在の色雄が集まるからワクワクするよ。それに、話が長引いても食い物には困らないからね」と、色気だか風邪っぴきだか分らないが、いずれにしても鼻にかかった声で赤黒斑の柳腰猫が言うものだから、のっけから話が脱線する。

 
「おいおい、こんなところで発情されちゃ会議も何もあったもんじゃないよ。俺だって現役を引退した振りしているけれど、その気にならないとは限らないよ」と、真っ黒の元ボス猫がブルルと身を震わせる。




汚れの世太郎が眠たそうな目を開いて、「おいらだって負けないよ。最近、ちょっとご無沙汰だからね」と発言すると、若後家の三毛が「私まで発情が伝染しちまうわ」と、腰を振る。 
 「何だい。与汰話しばかりでちっともましな意見が出ないじゃないかえ。これじゃ、人間様の集まりと変わらないよ」と、茶虎バッパがつむじを曲げたので、全猫、ニャニヤンと反省。


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