ちょっと険悪になりかけたので、バッパ猫は、「そりゃ、ご愁傷様だね。でも、若後家だって口で自慢していても、生んだ子猫はどうなったの、本当のところはどうなんだい」といなす。

 キッとした表情を解いて、「私はあんまり考えないようにしている。ボランティアの人だか、猫嫌いの人だか、誰がどこに連れて行ったかなんて、いなくなった赤ちゃんのことを考えてもどうなるものでもないし、私は自分が生きて行くだけで精一杯さ」と若後家の三毛が答える。

 バッパ猫は呆れ顔で、「あんたもすっかりノラ根性が身に付いたね。捨てられたばかりのときは、甘ったれの泣き虫だったのに。でも、そろそろ考えなきゃいけないよ」と説教する。

  若後家の三毛はむきになって、「お言葉を返すわけじゃないけれど、私だって好きで生み捨てるわけじゃ無いよ・・・」と、顔をこわばらせていたが、急に表情を和らげて「おばあちゃんはいつもつぶやいている・・・わたしは年金暮らしだからお前に持ってくる餌も貰い物ばかりだし、手術をしてやりたくてもお金が無いよ、・・・皆から猫ババアなんて陰口されても、わたしはお前が元気ならそれでいいんだよ・・おばあちゃんは年中、私のことで近所の人から文句言われているよ」と、次第にトーンダウンしてうなだれる。

 バッパ猫は、「何て文句を言われているんだい」と、眉を寄せる。


 若後家の三毛は、「ノラ猫に餌を与えないって会則を知らないんですか、とか、猫が嫌いな人もいるし、ノラ猫が増えると迷惑する人がいっぱいいるんですよ・・・なんてさ、町会役員さんの決まり文句よ」とはき捨てるように告げる。

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