五月のおわり…………。 
        
 風の流れが変わって暖かい海風がピューとふいた。庭の角のアメリカタンポポの綿帽子から小さな胞子が一斉に飛びたって、小さな命を運んでいる。

 お日様が真上に昇るころは、いつも昼寝の時間なのに、今日の俺は意味もなくニャオニャオないているのではない。茶虎バッパが熱を出して小屋の中で横になっているから、外の様子を伝えて元気付けているんだ。

 でも、「あっ、マウンテンバイクに乗った男の子が来た・・・」って言っただけで、「ああ、大洋ホエールズの青い野球帽を斜めにかぶっているだろう、アキ坊っていたずらっ子だね」と、バッパは物知りで何でもお見通しで、海から吹いてくる風の匂いで明日の天気も分かるんだ。

 ちょつと眠くなってアクビをしたら、「もういいから、こっちにおいで」と茶虎バッパが合図する。

 バッパは自分のことを「あちき」と言うけれど、力の無いとろんとした目つきで、生い立ちを話し始めた。

 「あちきの小さな頃に"チャトラの映画"が流行ってね、あちきのような縞模様が人気になった。ところが、一年もしないでブームが過ぎた頃、あちきは大人になっちまったらしく、何だか体が火照っちまって、もだえながらフギャフギヤと大声で鳴いていたら、"うるさい"って怒鳴られて、・・・ポイと捨てられたのさ」
 
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