俺は腕組みをして考え込んでいた。
 「アルは確かに血統付きの猫かも知れないけれど、どうして人は赤ちゃんを生ませる猫と生ませない猫を決めるのだろう」と、茶虎バッパに聞くと、バッパは「理由なんて無いさ」と、なげやりに答える。      
   
 「やっぱり血統かな」ふと口にしたけれど寂しい気がした。

 「今じゃ血統付きの猫だって段々増えてきたからね、今度はチャンピオンだ、グランドだって人間様はエスカレートするのさ」そうか、チンが私のフィアンセはグランドチャンピオンだ何て、変なこと威張ってると思ったけど、少し分かってきた。

 「でもね、タイトルを貰ったからってネコが変わるわけじゃないし、飼い主だけが気が気じゃないのさ」ん、流れが変わった。慰めてくれているのかも知れないが、分かったような、分からないような。
           
 
もじもじしながら、俺は気掛かりだったアルのことを聞いてみた。
 「アルは一度も広いお庭に出て遊んだ事が無い。ネコの自由とか幸せって何だろう」

 茶虎バッパは冷やかすように、「お前もちょっとは哲学的に考えるようになったんだね」と笑って、「その幸せってのは考えたことも無いけれど、難しいね。ネコには皆それぞれの生き方があって、それぞれの自由を楽しんでいる。そりゃ、家の外は限りなく広いけど、自動車も通るし、中にはネコ嫌いでいじめる人もいる。だから、アルはあれで幸せなんだよ」と教えてくれた。

 俺はちょっぴりどきどきして、もう一つ、もっと気掛かりだったことも聞いてみた。「アルは全然知らない猫とお見合いして赤ちゃんを生んだ。きっと他に好きな猫がいたのに………、」もしかすると俺の顔は赤くなっていたかも知れない。

 やっぱり、茶虎バッパは何でもお見通しだ。
 「アルはお前が大好きさ。いつも家の中からお前を見ているからね。

………でも考えてもごらん。アルは血統付きのアビシニアン、それは品種と云って人が作出したものなんだ。人が作出したものは人が責任を持って管理しなければ、みんな普通のネコになってしまうのさ」やっぱり難しい。アルは俺の知らない変な宗教に入っているのだろうか。まさか・・・・、

 俺が納得しないのを感じて、さらに、「人が中心の世の中にあって、ネコが猫だけの自由な社会を持てるわけじゃない。単純に考えても、ノラだったあちきの赤ちゃんは大抵が不幸になったけれど、アルの赤ちゃんには幸せが一杯約束されている。………そう思う」また、しんみりさせてしまった。    

 
俺にもちょっとだけ分かった気がした。それに、だれにも内緒だけれど、アルが俺を好きだってことも、はっきり分かった。・・・とても愛しく思うんだ。
 いつかきっと、庭に連れ出して、秘伝のバッタ捕り遊びを教えてやるんだ。

次号は梅雨・・・