梅雨のしとしと雨が上がると俺は忙しいのだ。

 先ず初めに、芝犬のハチ助が家の回りにに匂い付けしていないかを確かめる。いつもハチ助は石垣の角に小便を掛けてマーキングすると、後ろ足で土をかけるような仕草を見せて得意げに去って行くんだ。

  嫌な匂いが下からゆらゆら上ってきて、俺の自尊心を刺激するから許せない。

 それが終わると、ススキやエノコログサの成長具合も調べなくてはいけない。雑草が青々と生えてなければバッタが集まってこないし、遊ぶこともできないのだ。春に見掛けたガマ太郎のことも気にかかる。
 いつかのように、雨に浮かれて道路に転げ落ちているかも知れない。 
 
 猫はあんまり難しいことは考えないけれど、俺は何かを考え始めると、あれもこれもと広がって眠れなくなってしまう。それでなくても、じっとりした蒸し暑さに猫ノイローゼ寸前だ。

 俺は涼しくなったテラスに仰向けに寝そべって、元気出そうと腹式呼吸をしながら星空を見ていた。

 茶虎バッパは宇宙には地球の砂の数よりたくさんの星があると教えてくれたが、星は一つ一つ数えられても砂の粒は数えられるはずがない。

  茶虎のバッパの物知りにはいつも関心ばかりしているが、時々ほらだと思って聞き返すと、むきになって「これは本当のことだよ」と念を押してから話しを続けた。
  
 でも、七夕の日に一年に一度だけ天の川を渡ってデートする織姫星と彦星のお話も、雨神様が邪魔をしたら会えないなんて理不尽なものだ。それに、流れ星にお願いをするときも、見付けたらアッと言う間に消えてしまうから、いつも失敗する。

 内緒だけれど、俺には俺だけの秘密の星神様がいるから、寝ている振りしてお願いする。

 バッパに言わせると、あの大きくてピカ―ッて同じ長さの光を出しているのは人工衛星で、お星さまはもその何十倍も遠くにあってピカピカ、チカチカ光っているのだそうだ。

  でも、ボクには同じお星様に見えるし、やっぱり三日月様の真上でピカ―ッて光っているのが大好きなんだ。
 
 「星神様、星神様、明日の朝はちょっとだけお天道様を見せて下さい。夏の前にバッタ遊びのトレーニングをさせて下さい」俺はお呪いをするとき、滅多にやらないデングリ返りをサービスした。・・・・ 

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