朝早く俺が目を覚ますと、茶虎バッパは待ちくたびれたように、「お前、暇があったら………、ちょっと使いを頼まれてくれないかえ」と言う。これは茶虎バッパが俺に命令するときの枕詞で、頼むとかお願いするなんてものでははない。
 
 「昨日の夕方からお腹の具合が………、」なんて言い訳しても、すかさず年季の入った言葉が返ってくる。「そんなに遠出をするわけじゃないよ。猫にトイレの不自由もないだろさ。それとも、お天道様に遠慮してるのかい」

 「前に、余所でウンコ垂れたら、垂れてる最中に水をぶっ掛けられたよ」      
 「そりゃ、お前が悪いよ、野っぱらと花壇の区別ができないからさ、野っぱらの草は根も張って元気ものだから猫のウンコは平気でも、囲いの中の花はひ弱くて、猫のウンチやオシッコ掛けたらすぐ枯れっちまのうさ」

 ああ言えばこう言うで、問答無用、とどのつまりは使いに出掛けるはめになる。
  
 昨日の夜は久しぶりに星神様を見たので、一生懸命お願いをしたけれど、予定が狂った。

 言うだけ無駄とは思うが、もしか、ということもある、と思い直し「バッタ遊びを………、」と口にしたけれど、「ああ分っているよ、お前の好きなバッタをいつぱい集めておくからね」と先を越されて、やっぱりだめだ、と俺は口ごもる。

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