夏の始まり…………。        

冒険(その一)…………。

さっきまで海の上にいた入道雲がむくむく大きくなって辺りが薄暗くなったと思ったら、稲妻がビカビカッと光って、ドッシーンと揺れるような雷音が伝わると、すかさずどしゃ降りになった。

 こんな時は身をすくめているに限るけれど、すぐに雨が上って、ミンミンゼミが鳴きだし、海と陸にまたがって大きな虹が出た。

 「日暮れ前に虹が架かると、夕焼けになって明日は晴れだ」と茶虎バッパが言った通り、空も海も真っ赤に染めて夕日が沈んだ。


 翌朝早く、茶虎バッパが俺を起こした。俺がいつだって暇なのを知っているくせに「お前、暇があったら公園の様子を見てきておくれじゃなえかえ」と言う。

どうせ断わったところで「あちきはあんまし永くは無いよ」と、わざとらしく、しわがれ声を出すのに決まっている。これはお願いなんかじゃなくて命令なんだ。

  


 このあたりには公園がいっぱいあって、港の見える丘公園ならすぐ近くだが、茶虎バッの言う山下公園は、猫の行動半径五百メートルよりはるかに離れている。

 今日は木曜日、猫に曜日は関係ないが、夏の公園は家族連れやら恋人同士で一杯になるし、日差しで暑くなる。どうせ行かされるのだから早く出かけることにした。

次のページへ