山下公園までの道のりは下りになっているが、坂下の広い道路を二つ越えて、もう一つ、車の往来が激しい海岸通りの向う側に渡る、そこが最大の難関だ。そんなことから、ちょっと遠回りになるけれど、観光コースになっている安全な道を見付けた。

 隣の外人墓地から裏道を抜けて、まっしぐらに港の見える丘公園を目指す。石段をくだって長い歩道橋を渡って、ビルの後ろから公園通りに出るのだ。

 でも、俺は猫だからそうも簡単にはたどり着けない。それに、喧嘩上手な野良ボスだの、唸ってばかりのドーベルマンなんかに出くわさないように用心しての長旅だ。

 リスだ。
 どこから表われたのか尻尾の大きな台湾リスが、素早くどんぐりの木を駆け登った。木登りなら俺だって負けないぞと見ていたら、こんな芸当出来ないだろうと、頭から真っ逆様に下りて夏草の茂みに隠れた。俺はリスの真似なんか絶対にしない。つまらない。

 
ようやくゲーテ座跡まで来たが、この裏手には偏差値猫とあだ名のついた猫がいる。

  自分の頭の良さが自慢で、難しいことを言っては年がら年中ギャオギャオないている。

  以前に茶虎バッパも「お前、猫ってものはな、たかが猫、されど猫、・・・」と諭したが、訳のわからない理屈をこねるので、今じゃみんなが避けて通るようになっている。

 もっとも、この芝居小屋のゲーテ座がかの有名な文豪ゲーテの記念館だと勘違いしているくらいだから大したことは無いのだが、今日は急いでいるのでご対面はご免こうむる。






 そこからイギリス館のばら庭園を近道して、ようやく港の見える丘公園にたどり着いた。

  猫好きで知られた有名な作家の記念館の入り口で、青銅でできたエジプト猫が座っている。何でも、この猫のモデルが俺たち家猫のご先祖様らしい。    


  
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 phot by K.Yamamoto