水の広場の白い壁の所は少しは涼しそうで、道路際の街路樹の下は人だかりがしている。ヒッピー風の若い人達がビニールシートを敷いて、アクセサリーやらTシャツを並べて客の相手をしている。                 
  人気があるのはペルー・インディオの四人組の楽団で、「コンドルは飛んで行く」を民族楽器で軽快に演奏している。曲に合わせて前に行ったり後ろに下がったりするだけの素朴な振り付けだけど、時々頼りない日本語でカセットテープを売ったり、カンパを求めると、京袋を持った国籍不明の赤茶の長い髪の女の子が集金をする。

  フランス人の若い絵描きは、油性スプレーを振り回して、次々と幻想的な宇宙の絵を描いている。変てこなアクセントで「きれいな人に囲まれて私幸せ、特別サービス、三千五百円、三千五百円」と売り込んでいるが、 芸術家も金が大事なんだ。

 俺は少し焦っている。今日は朝から歩きつづけているし、もうくたくたなんだ。ここらで昼寝をしないとノイローゼになって悪い夢見るのに決まってる。

 青空市の外れまで来たら、道路端のブナの木の下で、日焼けした肌の若い女の人がひざ小僧を抱えるようにして本を読みながら、東南アジアの民族品を並べて売っている。変てこな顔をした黒いお面や木彫りの猫だが、客らしき人もいないし、大きな枝が張り出して日陰になってる。

 この人は猫が大好きなんだと俺には直感で分る。

 ちらりと盗み見するスッピンだけれどなかなかの美人だ、内緒だけれど、黒ちゃんなんて呼んでやろう。さりげないフリをして、そろっと近づいて行くと、黒ちゃんは本から顔を上げて「わあ、貫禄な猫ちゃん」と言って、俺のプライドを満足させて、顎下のゴロゴロもしてくれた。
 
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