汚れ白猫の与太郎は縄張りから離れて隣街で遊びほうけていたら、地場のオス猫と喧嘩になって怪我をした。傷はたいしたことも無かったのに、悪い病気が流行っていたらしく口からよだれが止まらなくて、今じゃガリガリに痩せちまって明日も知れないそうだ。
それに、若後家の三毛は車道に出た子猫を引き戻そうと追いかけて、やっと子猫をくわえたら、大きな車に跳ねられて、子猫はすっ飛んで命拾いをしたけれど自分のほうがあの世に行ってしまったそうだ。
茶トラバッパは寝る前になると海に向かって「ナンマイダブツ、ナンマイダブツ」と手をすり合わせている。
俺はどうしたら良いのか分らないのでバッパの後で神妙にしていたら、ふいに振り返って「お前は適当に臆病な上に出不精だから心配ないと思うけれど、ここを一歩でも離れりゃ何があっても不思議じゃないさ。ノラで生きていくのは大変なんだよ」と忠告する。
ついこの間は茶トラバッパのいい付けで遠出したのに、何で言われなきゃならないのだろうと思っていたら、俺の腹を見透かしたように「頼まれごとなんてものは真っ直ぐ行って、真っ直ぐ帰ってくるもんだよ」と説教に変わった。
「ほんの目先のフランス山に行くまでも、あっちこっち寄り道しながらデレンコ歩きをしていたよ。あんまり長く帰ってこないからどれだけ心配したかありゃしない」と涙を浮かべている。
俺は、ブツブツ言われるのにも慣れてしまったし、こんなバッパが大好きなんだ。
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