はな子さんとボク・・・・

ボクがゾウのはな子さんを知ったのは、もう10年以上も前になります。
動物専門学校の野外授業として生徒を連れて、毎年2〜3回会いに行っていました。
はな子さんは、いつも、お客さんにお尻を見せて、右、左、右、左と足踏みして体をゆすっています。子供たちが呼んでも滅多に振り返ることはありませんから、大抵の人は、直ぐに他の場所に移ってしまうのです。

ある日、平日で寒いせいもあって園内の人影も少なく、はな子さんの所には誰もいなかったのです。生徒たちも、直ぐに他の動物を見に行ってしまいました。・・・・

ボクは、周りに誰もいないので、「はな子さん今日は、ボクは猫ひげです。はな子さんはいつも寂しそうですね。いつも体を揺らせているのですね。ボクとお話ししませんか」って話し掛けました。
何かを期待していたのではありませんが、何となく話し掛けていたら、だんだんはな子さんの動きが大きくなって、そしてボクの方に向かって歩いてきたのです。最初はタイミングが良かったな・・・なんて思いました。

でも、お話しすると、ちゃんと長いお鼻を持ち上げて、ボクに答えてくれます。
「ボクは猫ひげですよ」って自己紹介すると、小さな目を一杯大きくして、「ボクは猫の先生なんです、変なオヤジでしょう」って言うと、心持ち笑っているような表情になり、一気に空気を吐き出して、ブファーなんて挨拶もしてくれました。
ボクはすっかり夢中になって、はな子さんとお話していました。人が来たので「さようなら、また来るね」って言うと、はな子さんは元の場所に帰って、また、右、左を始めています。

何人かの生徒がしばらく後のベンチで見ていたそうです。
「先生、一人でブツブツ言ってると可笑しいよ」って言うから、「うん、はな子さんと話をしていた」って答えたら、「先生、ますます変だよ」と、みんなキャッキャと笑います。
「そうかな、変かな」と、そのときは黙っていましたが、時間になって、生徒の集合場所に行くと、「先生は変になった、ゾウと話をしている」何て、みんなで囃します。

何だか変なムードになって、生徒を連れて、はな子さんの場所に引き返すことになりました。
生徒たちは、「はな子さん、はな子さん、こっち向いて・・・」と、口々に声をかけます。でも、はな子さんは知らん顔で、あっちを向いたまま、右、左を繰り返しています。
「先生、お話できるのなら、こっち向かせてよ・・・」って、生徒の一人がちょっと意地悪ぽくいいますが、ボクは、あんまり気が乗りません。もしかすると、ちょっと前にはな子さんとお話できたのは偶然だったのだろうか・・・って思えたのです。

でも、引っ込みがつかないような雰囲気なので、「お前達はうるさいから、こっちの方で静かにしていろ・・・・・」と、ボクは生徒とはなれて右側に一人で移動しました。そして、みんなに聞かれないように、はな子さんにお話を始めました。

「はな子さん、ボクの生徒たちが、ボクがはな子さんとお話していた、って言ったら、ウソだ、って言うから、また、帰ってきたよ。・・・はな子さん、もう一度ボクとお話してください・・・・」

すると、はな子さんは「仕方ないわね・・・」と、ボクの方に来てくれたのです。
ボクは、「ありがとう、はな子さん、ボクとはな子さんはお友達だね・・・・」と言うと、はな子さんは鼻を持ち上げて答えてくれます。
生徒たちがザワついています。ボクはちょっと得意でした。・・・

そして、はな子さんは、カメラを持った生徒の前で、ボクが「はな子さん、ポーズしてください」ってお願いしたら、はな子さんは、長い鼻を持ち上げたり、次には溝の縁に足をかけて、ちょっと片足を折り曲げて見せてくれました。

中には感激して泣き出す生徒もいました。・・・・でも、うれしくって、一番泣き出したかったのはボクなんです。

それから、毎年、今までに十回以上もはな子さんに会いに行って、いつも、時間の来るまで、ボクははな子さんとお話していたのです。

あれから、5年・・・・ごめんね、ずうっと来なかったね・・・





はな子さんは50才を超えています。
飼育係りの人たちの努力で、キャベツの芯を取り除いてもらったり、果物はジュースにしたり、今でも毎日100kgの餌を食べます。



誰もボクが呼んでいるとは思わないようですが、はな子さんは、一目散にボクの方に向かってきてくれます。



ボクの前に長い鼻を伸ばして、「なんだよぉ・・・ずぅっと来なかったんじゃない・・・元気だった」

(はな子さんの言葉はボクの想像ですよ・・)



午後4時を過ぎた頃にお食事です。
ボクは小屋に回って、やっぱりお話しています。

子供たちが来ても「臭いな〜〜」何て言って、長くはいません。ボクは午後5時の閉園まで、ここにいます。

象のはな子さん POEM
ゾウの資料